生前贈与を活用する

相続税対策の一環として、被相続人予定者の所有する財産を、その被相続人予定者のご存命中に、その被相続人予定者の相続人となる見込みの方、あるいはお孫さん、知人、友人等に贈与して、その所有権を移転させる方法、「生前贈与(せいぜんぞうよ)」を以前から活用されている方も多いのではないでしょうか。


相続時精算課税制度(そうぞくじせいさんかぜいせいど)の適用要件が以前に比べ緩和されている等、生前贈与はより使い勝手の良い事前の相続対策として用いられるようになりました。

また、平成27年度税制改正にて、これまでの子や孫等に対する教育資金贈与につき、1,500万円まで基礎控除や相続時精算課税とは別枠で贈与税を非課税とする制度に加え、生活・婚姻資金につき1,000万円までの贈与非課税枠がさらに別枠で新設され、さらには住宅資金贈与につき贈与時非課税の枠を1,000万円増額することが実施されており、ますます活用頻度が増えそうです。

ここでは、いろいろな生前贈与のパターンをご紹介いたします。

それぞれの事案に応じて、ご参考になさってください。

1.暦年課税贈与による生前贈与

暦年課税贈与による生前贈与とは、1歴年単位(1月1日から12月31日まで)で計算される贈与制度を利用して生前に財産を自分以外に移転させる方法です。

1暦年単位で基礎控除110万円までの贈与なら、受贈者(贈与を受ける人 = 財産等をもらう人)に納付すべき贈与税額は発生しません。また、受贈者は親族のほか、親族以外の知人、友人、職場の方など、誰でも構いません。

この基礎控除の範囲内で毎年コツコツと生前贈与をされている方も多くいらっしゃいます(連年贈与の認定をされないように注意が必要です)。

 

ただし、「生前贈与加算」といって、相続開始前3年以内(相続の開始が平成30年10月15日の場合は平成27年10月15日以降)の贈与に関して、その贈与者の相続により財産を取得した方は、その相続の被相続人から、生前贈与により取得した財産の価額を相続税の計算に持ち戻す必要があります。

 

例えば、相続開始が平成30年10月15日で、平成28年5月15日にその相続の被相続人から100万円の現金をもらっていた場合、今回の相続でその被相続人から財産等を取得する方については、その現金100万円を、この相続の財産の総額に含め直して相続税額を計算します。

なお、その被相続人から生前に贈与を受けていたとしても、その被相続人(生前贈与者)の死亡に伴い開始した相続または遺贈(遺言により財産を相続すること)により財産を取得しない方は、生前贈与加算をする必要はありません。もちろん、その被相続人の相続に係る相続税を納付することもありません。

 

また、持ち戻すときのその価額は相続開始時の時価ではなく、その財産の贈与時の時価です

持ち戻す受贈財産につき納付した贈与税額があるときは、今回の相続税の計算において、「贈与税額控除」として算出相続税額から、その納付した贈与税額を控除して、残りを納付します。

 

生前贈与加算のフロー

相続の開始が平成22年10月15日なので、持ち戻しの対象となる贈与は平成19年10月15日以後相続開始までの贈与となります。
したがって、平成18年12月25日の現金200万円の贈与については、その価額を持ち戻す必要はありません。反対に、納付済の贈与税額を今回の相続税額から控除することはできません。

 

贈与は、法律上「双務契約」といって、「あげる」「もらう」という認識を、当事者双方が明確にして初めて成立する行為です。

「名義預金(通帳の表面上のお名前がお子様だが、実質管理者は親、というもの)」なる資産が存在するのは、この「贈与は双務契約である」という認識が欠落しているためです。

生前贈与を実施する際は、多少面倒で合っても、その贈与内容を書面に残し、当事者双方の認識を明確にしておきましょう。

 

 

2.相続時精算課税による生前贈与

相続時精算課税(そうぞくじせいさんかぜい)とは、平成15年に新たに創設された贈与の形態で、高齢者の保有する財産を次世代に円滑に移転させ、それによる若年層の消費増を期待して導入されました。

相続時精算課税を適用するには様々な要件がありますが、特別控除額が大きく、また、相続税の計算に持ち戻す贈与財産の価額は、贈与時の時価であることなど、大きなメリットもあります。反面、デメリットもありますので、慎重な判断が必要です。

(1) 相続時精算課税を適用するための要件

  1. 受贈者が、贈与者の推定相続人またはその子であること
  2. 受贈者が、贈与者の直系卑属であること
  3. 受贈者が、その贈与があった年の1月1日において20歳以上であること
  4. 贈与者が、その贈与があった年の1月1日において65歳以上であること

以上の要件すべてに該当すれば相続時精算課税による贈与をすることができます。

とくに注意したいのは3.と4.です。1月1日にさかのぼって年齢を判定しますので、その年で20歳になる、あるいは65歳になる方は、適用可能な年が翌年になります(平成25年度税制改正において、平成27年1月1日以降の贈与につき、受贈者に贈与者の孫が加わる等、要件が緩和されています)。

また、実際に相続時精算課税を適用する場合には、「相続時精算課税選択届出書」をその贈与に係る期限内申告書に添付して提出しなければなりません(戸籍謄本など、推定相続人であることを証明する書類その他一定の書類も併せて必要です)。

 相続時精算課税選択届出書は一度提出すると、その贈与者についての相続が発生するまで撤回できないという決まりがありますので、注意が必要です。

また、たとえば、父親からの贈与については相続時精算課税を、母親からの贈与については暦年課税贈与を、というように、分けて選択することができます。

(2) 相続時精算課税による贈与税の計算方法

  1. 相続時精算課税による贈与税の特別控除額は2,500万円です。
    よって、両親ともに相続時精算課税を選択した場合は、合計5,000万円まで贈与時点では無税で財産移転が可能です。
  2. 1年ごとに2,500万円の特別控除があるのではなく、相続時精算課税を適用し始めてから、その贈与者の相続が開始するまでの贈与通算で2,500万円です。
    なお、通算で2,500万円を超える贈与があった場合は、その超えた部分について、金額の多寡にかかわらず、一律20%の贈与税が課されます。
  3. 暦年課税の贈与と異なり、持ち戻しの対象となる贈与に年限はありません。すなわち相続時精算課税を適用した以後の年分の贈与についてはすべて、相続税の計算に持ち戻します。
    なお、持ち戻す価額は、やはり贈与時の時価です。
  4. 持ち戻された贈与財産につき納付した贈与税額があるときは、その納付済贈与税額を算出された相続税額から控除して、残りを納付します。
    また、控除しようとする納付済贈与税額がその相続税額から控除しきれない場合は、その控除しきれなかった贈与税額が還付される点が、暦年課税贈与と大きく異なる点です(暦年課税贈与にかかる納付済贈与税額が還付されることはありません)。

 

相続時精算課税のフロー

相続時精算課税選択届出書を提出する年分前の贈与は暦年課税贈与ですので、持ち戻しの年限はやはり相続開始前3年の応答日以後相続開始までのものが対象となります。
持ち戻しの価額は贈与時の時価ですので、将来値上がりが見込まれる確率が高いもの、たとえば土地や上場株式などを贈与すると効果バツグンです。

ただし、相続時精算課税の対象とした居住用宅地等(宅地や借地権)については、小規模宅地等の特例の対象とはなりませんので、注意が必要です!

 

 

3.贈与税の配偶者控除

被相続人予定者の財産を生前に移転させるという観点から、贈与税の配偶者控除を利用した生前贈与も考えられます。
この制度は、婚姻期間が20年以上である配偶者間において、居住用不動産またはその取得のための金銭の贈与があった場合には、その贈与税の課税価格から2,000万円を控除する、といったものです。

結果、暦年課税の基礎控除額110万円と合わせて2,110万円まで贈与税がかかりません。

 

贈与税の配偶者控除の適用要件

  1. その贈与当事者間の婚姻期間が20年以上であること。
    婚姻期間は、婚姻届の提出があった日から起算します。贈与の日までに仮に離婚していた期間があれば、その期間は除きます。1日でも欠けていると適用不可となります。
  2. 贈与税の申告期限内に所定の書類を税務署に提出すること
    所定の書類とは、一定の事項を記載した贈与税の申告書および婚姻期間が20年以上であることを証明する書類です。

物理的に、同一人につき一生に1度きりの適用が可能です。再婚され、その再婚者との婚姻期間が20年以上になった場合には、その再婚者との贈与につき適用できます。

ポイント

贈与税の配偶者控除により生前贈与された財産は「特定贈与財産」といって、贈与者が贈与から3年以内死亡し相続が発生した場合でも、その相続税の計算に持ち戻す必要がありません。

配偶者は相続時精算課税の適用対象者にはなれませんので、この制度を利用されるのも大きな生前の相続対策になり得ます。

 

また、平成29年2月28日付、この特定贈与財産については、贈与者が「受贈者の相続時に、課税価格の総額に含めてほしくない意向がこめられている」ことを配慮し、受贈者の相続が発生した際、優遇されるよう、検討中であることが発表されました。

これに伴い、「配偶者居住権」の創設も現実的となっています。

 

贈与税の配偶者控除を適用した場合の生前贈与加算

4.住宅取得促進税制の活用

以前より、住宅取得のために受ける金銭の贈与については、大幅な税負担の軽減策が実施されています。

先の税制改正により、平成31年6月末までの住宅等取得契約分の贈与についても原則1,000万円(特定の優良住宅は1,500万円、段階的に上限引き下げ)までの当該贈与であれば、やはり贈与税は非課税とされる措置が設けられています。

あくまでも住宅取得のための金銭(住宅、土地の現物は不可)の贈与に限られていますが、生前に保有資産を自己以外に移転させるといった観点からは、やはり、生前贈与の一種といえるのではないでしょうか。
設定されている特別控除額が大きいですので、利用する、あるいは一考の価値はあるかと思います。

 

なお、平成27年度税制改正により、非課税金額の上限を、これまでの贈与年ではなく、当該住宅等取得の契約年月で判断することとなりました。

平成27年分以降の贈与につきましては「タックスインフォメーション」のカテゴリーに掲載してありますので、ご参考になさってください。

 

5.教育資金贈与の非課税制度

平成25年4月1日より、教育資金の信託受付が各金融機関にて始まっています。

なお、平成27年度税制改正により、信託の受け付け期間が平成31年3月31日まで延長され、教育資金の使途の範囲の拡大、提出領収証等につき緩和等が実施されています。

 

 

【制度の概要】

受贈者の要件  : 30歳未満であること

贈与者の要件  : 受贈者の直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母)

非課税の範囲  : 授業料等、教育機関に直接支払われるもの  1,500万円まで

習い事等、間接教育費            500万円まで

なお、使途が混同する場合であっても、上限は1,500万円となります。

申告の方法   : 適用を受ける旨等を記載した「教育資金非課税申告書」を信託金融機関を通じて
納税地の所轄税務署長に提出します

未使用分の精算  : 受贈者が30歳となるまでに使用しなかった信託の残金については、受贈者が30歳と
なった日において贈与があったものとされます

なお、受贈者が30歳となる前に死亡した場合には、残金につき贈与税は課されません

また、信託契約期間中に贈与者が死亡した場合で、信託残高があるときは、その信託残                                                      高について は相続税の課税価格 には算入されません。

 

期中の運用としては、引き出しの際に使途を証明する書類を各金融機関に提出することとされています。

また、この贈与制度によるほか、相続税法には、扶養義務者相互間における生活費、教育費に関する贈与につき、通常必要とされる金額までは非課税とする旨の規定があります。

 

 

6.結婚・子育て等資金の一括贈与制度

 

平成27年度税制改正により新たに設けられた制度です。

受贈者の年齢が20歳以上50歳未満であることが要件となります。

その他、上記5.と、制度の概要は類似していますが、その使途や上限金額等が異なり、贈与税が非課税となる一括贈与額は1,000万円まで、また、結婚等資金については、その1,000万円のうちの300万円まで、とされています。

 

 【 この制度に言う非課税の対象となる支出額の例 】

・ 婚礼、披露宴、新居への引っ越し、新居の住居にかかる支出

・ 出産費用や不妊治療にかかる費用、産後のケアに係る費用

・ 保育料やベビーシッターへの支払い報酬

 

結婚相談所へのコンサルティング報酬など、いわゆる婚活費用、新婚旅行費用、結婚指輪の購入資金、新居に備える家具・家電購入費用は非課税の対象ではありません。

 

なお、この制度の適用期間は、平成27年4月1日から平成31年3月31日までとなっています。

 

なお、信託契約期間中に贈与者が死亡した場合で、その信託に未使用残高があるときは、その残高は相続税の課税価格に算入されます。

その際、受贈者が2割加算の対象となる者であっても、相続税の2割加算は適用されません。

 

 

詳細等につきましては、信託を希望される金融機関、または工藤力税理士事務所までお尋ねください。

 

 

※ 「2.相続時精算課税による生前贈与」の頁においては、ご覧になって頂く方への配慮から、一部、相続税法その他関連法令に規定される用語とは異なる簡易な表現、または用語を用いている箇所があります。

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